
☆この映画は軽いイメージです。あまり映画批評も高くない。
大きな眼のキャラクターも芸術性が低いと大手新聞の批評家に過酷に批判されます。
しかし、この映画のなかでイタリアのオリベッティや多くのハリウッドのスターたちも買
い求める事実もあったのです。
☆世の中には天性のぺてん師がいる。
嘘つくのをなんとも思わない。
そして、アメリカンドリームのようにプールつきの豪邸、車、名声、富を得れてしまう。
アンディ-ウォホールのスープ缶詰めより前に、同じ発送で量産しスーパーで売って儲け
ていたぺてん師が主人公マーガレットの二番目の夫です。

☆アートの業界には夢とお金がつきまとう。
本物のアーティストは別にお金のために絵を描いたりはしない。
絵を描く充足感は特別なもので少しでも良い絵を描くことに専念している。
しかし、人生は複雑で家族を養うのにも絵の具やキャンバスを買うのにもお金がいる。
主人公のマーガレットが美術学校を出てやはり家具工場で赤ちゃんのベッドに絵を描いて
職人のような仕事をしていた。
☆私がボストンにいたときも、美術学校を出て画材屋さんで働いている人をたくさん見た。
そうすると、絵を絵がく時間が無くなるので、そこから脱却しようとする人たちの絵の値
段はとても高い。
とてもビジネスライクでアメリカの人たちは「マネー,マネー!」といつも言っている感
じ。
美術学校も様々で有閑階級の暇潰しのマダム もいれば身体障害者のヒーリングもあれば、海外の美術学校を出てアメリカで夢実現を果
たしにくるものありで、とても競争的な世界でもあった。
ただ絵が好きなだけではないのだ。
☆マーガレットは休日にサンフランシスコの観光客用の似顔絵を2ドルで描いていた。1
ドルでと言われれば「いいわ。」と言ってしまう若い女性。
既に暴力的な夫から逃げて、まだ幼い娘を養わなければならなかったのだ。
似顔絵描きだって芸術のためでなく、生活のためだ。
そこに声をかけてきた風景画家はパリでボザールで学んだと言う。
冗談好きで明るくお喋りな彼は不動産屋で日洋画家だと言うが。
マーガレットは男の庇護で子供を安心して育てたかったし自分の絵の理解者だしと恋に陥
りハワイで結婚式。
☆夫は知り合いのレストランの壁に絵を飾ってもらうよう頼むが与えられたのはトイレの
そばの通路の壁。
画廊からは相手にされなかったのだ。
しかし、高級レストランの客はその壁にかけた妻の描いたビッグアイズの絵が評判になり
売れ始める。
「 誰が描いたの?」と訊かれ、夫は妻の描いた絵を「自分だ。」と言ってしまう!
不動産屋の手口でセンミツと言うか口が達者で、上手に売り付けることもより多く稼ぐこ
とも知っていた。
妻は驚くが、経済的とに潤い始めたことと、夫婦は一体と言うビジネスのあり方に「そう
かな」と思う。
☆絵は50年代から60年代に大変なブームになり、セレブも買い求める。
夫は絶好調で実は妻が描いていると知られないように監禁する。
連れ子の娘にも内緒にするが子供はいつも部屋に閉じ籠っているママに不信を持つ。

子供をモデルにした絵も父親は違うモデルだと言い張る。

☆アンディ-ウォフォールはさらに写真をコピーしたこの流れのアーティストだ。
安っぽく、インチキ臭く、「それが時代だ!アメリカだ!」と言うアートが悪いわけでは
ない。アートは常に時代の写しだからだ。
しかし、ウォホールの周囲も不健康で彼自身もドラッグやセックシス、家出少年や少女と
ともに壊れるように亡くなった。
商業デザイン出身の彼のセンスや時代取り感覚は抜群でそれも才能のうちである。
☆マーガレットは苦しかった。描く少女には涙がたまっている。
彼女は絵を描くことが好きで、子供が無事に幸せになっていれば良かったかもしれない。
夫のよう莫大なる富や名声やセレブとの交際など、何の興味もない。
しかし、やり手の夫がいなければビッグアイズが脚光を浴びることも映画化されることも
なかっただろう。
唯一良かったのは、夫は妻に絵を描かせ続けた事だ。
こんな状況で描いた絵は夫のサインが入っていようと妻の仕事として残ったのだから。
そして、今も世界中の著名人の家にあるだろう。
☆ハワイに娘と逃げた妻は、ある時に、エホバの証人の訪問を受ける。
「ものみの塔」だ。彼女達の持つパンフレットに「嘘は罪だ。」とあった。
彼女は宗派はちがってもカトリックの司祭に告解している。
マーガレットは辛かったのだ。夫の共犯となって自分の描いた絵を夫の絵だとしているこ
とが。
☆「純粋力」にある牧師が嘘をつくことを嫌い、たぶん一生 嘘をつかなかっただろうと言う文章とその子供も嘘をつかないように教育されたと言うの
があってとても心に残った。

嘘をつかないと言うのは凄いことで、「学歴を信じない。」と結論を得たら、東京大学を中退すると言うことで、それを実践している人が出てくる。
行動に嘘があってはいけないと言えば、そんなに簡単に社会にスイスイと生きていけなく
なる。
そして、作者の末田さんは「純粋力を持った人が10人いれば世界は変わる。」
と言う。
どういうわけか、あとがきと帯にホリエモンが書いている。
経済的な考えが似ていると言うのだ。
奥さんの写真家が出した写真集には千石イエスやパリで成功した若いアーティストのなぎ
さちゃんの写真があって、なぎさちゃんは飛び降り自殺の末32歳で死んでいる。
コカ・コーラのコマーシャルを企画するほどの優秀なデザイナーだったらしい。
それで、千石イエスさんの「裏聖書」と言う考えがたくさん書かれていて、神と一体にな
ることが信仰で妻の写真家は夫を愛することが神と一体になると言う結論になる。
末田さんの「純粋力」には赤塚不二夫さんが「人より下に自分を位置する」と言っていた
ことも書かれていて、神は語るより実践することで、おごることや建物の立派なことに意
味無いと言う。
いちいち、同意してしまう。
人との関わり方で、私達がいかに偏見の奴隷になっていたか?
それで、嘘というのは罪だと思うのだ。
☆マーガレットの嘘の苦しみは人間として健全であった絵を描くことにとって何よりも大
事なことだ。
絵には嘘があってはなら無いから。
☆ぺてん師の夫は無一文で孤独に死んだと言う。
マーガレットは再婚し、サンフランシスコでギャラリーを開き絵をまだ描いている。
89歳。
☆女性が絵を描くにはハンディがつきまとう。
家事も完璧、絵も最高とはいかない。
そのため、独身を選ぶもの、離婚になるのはざらである。
そして、独身でも離婚しても日の目を浴びるのはごくまれ。
日の目を浴びなくても描き続けるのも至難の技である。
夫が背負ってくれた交渉も女のマーガレットがやれば甘く見られてもっといいようにされ
ていたのかも知れなかった。



井戸の鶏。

壊れたアーチ。
